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こちらはトミーウォーカーが運営する「SILVER RAIN」に登録しているキャラクター、「芹澤天」と「山田八重」のブログです。
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夏休みになって、家に帰って。
家族に会って、変わってないなぁとか、それがとっても嬉しいとか、そんな事を思いながらのんびり過ごして。
そして今日、あの場所へ行くことにしたんだ。
帰る前から、心に決めてたこと。
今から、会いに行こう。
美味しいお饅頭と、百日草の花束を持って。

出かけようとして、中学生になって買ってもらった自転車は、鎌倉の家の方に置いてきたんだったと気付く。
持ってくればよかったかな、でも、持ってくるのも大変だし…。
そんなことを考えながら、小学校の時に乗っていた自転車を倉庫から引っ張り出した。
赤に黒い英字の入ったマウンテンバイク。
小学校の頃はどこへ行くのにも乗っていたお気に入り。
でも、今はちょっと、子供っぽいかなと思う。
試しに乗ってみると、足が地面について膝が少し曲がった。
いつの間にか自転車が小さくなって、いつの間にか僕が大きくなって。
それが少し嬉しくて、自然と顔がほころんだ。
でも、こんなに低くちゃ、上手くこげない。
仕方が無いから、お母さんの自転車を借りていくことにした。
お母さんの自転車は、サドルが高くて、一番下まで下げてもつま先しか着かなくて、よろよろへろへろ。
それを見て満おねーちゃんが笑ったから、僕は拗ねて頬を膨らませた。
その隣で、大丈夫?って望おねーちゃん。でも顔は、満おねーちゃんと同じように少し笑ってる。
僕は頬を膨らませたまま、大丈夫って頷いた。

甘栗を前のカゴに乗せて、津が入ったリュックを背負って、爪先立ちで自転車に乗って。
二人のおねーちゃんに行ってきますを言って。
心配そうに見てたから、大丈夫、転ばないように気をつけるからと笑顔で告げて、自転車を漕ぎ出した。
…相変わらずの、へろへろ運転だったけど。



じりじり、みんみん、あちこちでセミ達の大合唱。
まだ夜の涼しさが残る午前の道を、自転車で進んでいく。
カゴの中の甘栗に、外に飛び出しちゃ駄目だよと注意しながら。
リュックの中の津に、窮屈だったらちゃんと言ってねって呼びかけながら。
そうやってこいでいると思い出す、あの時の記憶。
あの時も、こうやって自転車をこいで通ってたんだっけ。
甘栗をカゴに乗せて、お菓子をリュックに詰め込んで。
あの頃の僕はずっとずっと欲しがってばかりいて、でも、どうやって手に入れるのかも分からなくて。
それを手に入れることが出来たのは、きっと……



リュックから顔を出した津が、ここだよって伝えるように一声鳴いて、僕は自転車を止めた。
コンクリートで舗装された道から伸びる、木々に囲まれた細い砂利道。
そこから先は、歩いていかないといけない。
自転車を止めて、ちゃんと鍵をかけて、ゆっくりと甘栗を下ろす。
一人と二匹で、砂利道を進んでいく。
生い茂る草達が少し邪魔だけど、甘栗は冒険気分で楽しそう。
津がリュックからもぞもぞと出てきて、一緒にリュックの中に入っていた小さな花束を抱いてふわりと中に浮く。
赤、オレンジ、黄色、白…暖色系に纏めた、カラフルな百日草の花束。
小さな花束といっても、津のその小さな体には大きくて。
前が見えないのか、あっちにふらふら、こっちにふらふら、見てるこっちがハラハラするような動きで危なっかしい。
「津、僕が持っていくよ」
そう言っても、津は頑なに花束を離そうとしない。
それでも、木にぶつかったら心配だから、僕は少し考えて、それからいいことを思いついた。
「じゃあ、こっちへおいで、津」
僕が呼びかけると、津はくるりとこっちを向いた。
「むぇ?」
カラフルな花達の向こうで、不思議そうな鳴き声。
「花束を持った津を、僕が抱っこしていくよ。それならいいでしょ?」
少しだけ、考え込む気配。
「むぃ」
納得したような鳴き声を一つついて、ふわふわと津がこちらに飛んでくる。
そしてくるりと僕の前で方向転換すると、僕の両手に収まった。
「むぇむぇ」
僕を見上げて、津が嬉しそうに鳴く。
お礼を言っているんだって分かって、僕は微笑んだ。
「どういたしまして」



細い砂利道の先。道が開けて、見慣れた景色が見えてくる。
広い庭と、古びた日本家屋。
あの時と違うのは、照りつける夏の日差しと、青々と生い茂る草木達。
それでもその一軒家は変わらずに、眠るように佇んでいた。
甘栗が率先して歩き出して、引っ張られながら僕もそれに続く。
足元に気をつけながら、緑の庭を横切っていく。
行き先が分かっているのか、甘栗は真っ直ぐに縁側にたどり着いた。
縁側に津をそっと下ろすと、津は花束を置いて、雪見障子のガラスが割れている部分を潜って家の中に入っていった。
僕はリュックを置き、縁側に乗りたそうにぴょこぴょこ跳ねている甘栗を抱き上げて乗せてあげた。
甘栗の左隣に腰を下ろし、リュックを開ける。
甘い匂いでもするのか、甘栗が鼻を鳴らしながら覗き込んでくる。
その様子に苦笑しながら、僕は水筒と骨のイラストが入ったクリーム色のお皿を取り出した。
お皿を甘栗の前において水筒の中身を注ぐ。中身は冷蔵庫に入れておいた冷たい水。
喉が渇いていたんだろう、甘栗はすごい勢いで水を飲み始めた。
その間に、僕はもう一つの水筒を取り出す。次に取り出したのは、タオルのぐるぐる巻き二つ。
タオルを解くと、切子の茶碗と、ガラス製のおちょこが姿を現す。
僕はその二つを左側に置いて、水筒の中の冷茶を注いだ。
次にお饅頭の入った箱を開けて、四枚の小皿に取り分けけていく。
「むぇ~」
津の鳴き声。
なんとなく呼ばれたような気がして振り返ると、さっき入っていった雪見障子の向こうに津がいた。
手には一枚の藍色の座布団。座布団を抱えながら雪見障子のガラスが割れた部分をくぐることはできないから、僕を呼んでいるんだろう。
僕は頷いてから立ち上がった。
「倒れたら危ないから、ちょっと下がっててね。津」
津に声をかけてから、靴のまま縁側に立ち、雪見障子に手をかけた。
倒れないように気をつけながら、少しずつ少しずつ、障子を動かしていく。
半分ぐらい開けたところで止めると、津が座布団を引きずりながら出てきた。
「むぇむぇ」
さっきみたいに僕を見上げて、津が嬉しそうに鳴く。
お礼を言っているんだって分かって、僕は微笑んだ。
「どういたしまして」

津は座布団を置くと、その上に、そっと百日草の花束を乗せた。
その座布団を間に挟んで、僕と津が座る。
向かって右から津、座布団、僕、甘栗という並び。
津がおちょこで冷茶を飲みながら、お饅頭をつまむ。
甘栗はとっくに食べ切って、次はまだかと舌なめずり。
僕は甘栗に取られないように急いで食べて、それから水筒のコップで冷茶をゆっくりと飲む。
そして花束が置かれた座布団の前には、冷茶の入った切子の茶碗と、お饅頭が置かれた同じ切子の小皿。
今は亡き人。津のかつてのパートナー。

僕は、その人のことをよく知らない。

その人がどんな名前なのか、どんな顔をしていたのか、どんな性格だったのか。
でも、津にとって、とてもとても大切な人だったということだけは分かる。
切子の茶碗も小皿も、ここに来る前に津が選んだものだから。
鎌倉の和雑貨のお店をあちこち回って、なかなか津が納得するものが無くて、僕はさすがにへとへとになった。
それでも探し続けたのは、津の気持ちが分かるから。
誰かを大切に思う気持ち。大切な人のために何かをしてあげる気持ち。
津の大切な人なら、僕も大切にしたいと思うから。

「…むぅ」
切子の茶碗と小皿、それから花束を見て、津は満足気に頷いて冷茶をすする。
その様子がなんだか年寄りくさくて、僕は思わず噴出した。
すると津が不思議そうに顔を上げたから、僕は慌ててなんでもないよと取り繕った。
それでも津は不思議そうにしていたけれど、やがておちょこを置いてふわりと浮くと、僕の膝の上までやってきた。
ちょんと膝に座ると、ちっちゃな手で僕の指を持って、上下に振る。
それから顔を上げて、嬉しそうに鳴いた。
「むぇむぇ」
本日三回目の感謝の言葉。
今までのがありがとうなら、きっと、今のは本当にありがとうなんだろう。
なんだか暖かい気持ちになって、僕はその手を優しく握り返した。
「こっちこそ、ありがとう」
津が不思議そうな顔をする。
「一緒にいてくれてありがとう。津がいたから、僕はこうやってここにいられるんだよ」
二つの黒いまん丸の目が、ぱちぱちと瞬く。
「津に出会えてよかった」
不思議そうに見上げる姿が可愛くて、一緒にいられることが嬉しくて、自然と笑顔がこぼれる。
「出会ってくれて、ありがとう」
まん丸の目がますますまん丸になって、それから、ぽろり、と小さな涙がこぼれた。
津が泣くところなんて、初めて見た。
大切な人を亡くして、それでも一匹でここに居続けて、僕と出会って。
あの出来事が起こるまで頑なにここでの生活を続けていた津は、とても強いんだと思っていた。
泣くことなんてないと思っていたのに。
「むゅ~!」
次の瞬間には、顔の左半分にへばりつかれて、見えなくなってしまったけれど。
照れ隠しなのか、顔にへばりついたまま、わしゃくしゃと僕の髪の毛をかき回す。
「ちょっと津、髪の毛がぐちゃぐちゃになっちゃうよ」
僕は困ったように笑いながら、顔にはりついた津を撫でる。
「あうっ!」
「え!?ちょっ、甘栗っ!?」
何か新しい遊びだと勘違いした甘栗が飛びついてきて、僕は縁側に倒れた。
幸い、縁側が広いおかげで雪見障子にはぶつからなかったけど、それでもぶつけた頭がちょっと痛い。
そんなことはお構いなしに、甘栗がぺろぺろと顔を舐めてくる。
「甘栗、これは遊びじゃな…うわわっ!くすぐったいってば!あはは!!」
気付いたら津も顔をぺろぺろ舐めてきていて、僕は笑い転げながら足をばたつかせた。
笑いすぎて涙が出てきて、視界が滲んでくる。

その視界の隅に、少しだけ見えたんだ。

僕の左隣に座る後姿。
こちらを振り返って、笑う口元。

気のせいとか、幻だって言い出したら、きっときりがない。
でも、もし、それがあの人だったら。
今ここに帰ってきていて、隣に座って、一緒に笑っていてくれたら……


それはとても嬉しくて、とても幸せなこと。


だから、

「ありがとう」

お礼を言おう。
津に、甘栗に、ここに来ているかもしれないあの人に。
出会ってくれてありがとう。
今ここにいてくれてありがとう。


ずっとずっと、欲しがってばかりいた僕。
望おねーちゃんの隣にいたくて、同じ場所へ行きたくて。
それでも、どうすればいいのか全然分からなくて。
手に入っても、悩むことはいっぱいあって、怖いことも沢山あって。
不安で、動けなくなりそうになる時もあるけれど。
それでも、こうしていられるのは、笑顔でいられるのは、

「本当に、ありがとう」


きっと、今まで出会ったみんなのおかげ。


みんながいるから、僕はここにいられる。
挫けずに、前に進んでいける。
これからもきっと。
これからもずっと。


両手で津と甘栗を抱きしめて、僕は思いを紡いだ。


「大好きだよ」











以下、背後の呟き--------------------------------------------
ここ数日まとまった休みが取れたので、こんなものをちまちま書いていました。
夏休みに帰省した時の話。天バージョン。
右腕は割と大丈夫です。無理はしていないので。
話が予想以上に長くなったのは、キャラが勝手に動くせいと音楽のせいです(ぇ
文も絵もその時聴いている曲に左右されるので。
基本的にその話のイメージにあった曲を聴くようにしてます。その方がノリノリで書ける。

天と津の出会った話が垣間見える話…になったんでしょーか。
そっちもいつか書きたいです。
え?誰も見ないって?気にするな自己満足だ(ニコー!
というかここまで読んでる人なんていないだろうしなぁ。
帰省した時の話、八重バージョンも出来れば書きたい…が、出来るのだろうか。

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