そこは、本来ならばシックな印象を受けるであろう、モノトーンの家具で統一された部屋。
けれど、カラフルな犬のおもちゃや可愛らしいヌイグルミ達によって、ずいぶんと賑やかな空間になっていた。
入って右側にある背の低い黒の本棚。上にはヌイグルミ達と小さな木箱が置かれ、中には上の棚から小説、漫画、雑誌、辞書の順番で本が几帳面に並べられている。
反対側に置かれたシンプルなデザインの机も、色はやはり黒。ペン立ての中のカラフルなペン達が彩りを添える。
机の横には赤と白のストライプのおもちゃ箱が、中に詰められた骨の形のヌイグルミや小さなフリスビーを、今にも零れ落ちそうな危ういバランスで見せていた。
部屋の隅に置かれた大きな黒い箱からはお菓子のパッケージが姿を覗かせている。そこから甘い匂いが部屋中に広がり、部屋の印象をますます妙なものにさせていた。
「あー、やっぱ外はあっついよね~」
部屋の中央。黒と白の市松柄のラグに腰を下ろして、八重は手で顔を扇ぎながら言った。
肩のあたりですいた桃色がかった茶色の髪、新緑色のぱっちりとしたツリ目。
英字がプリントされた白いノースリーブの下に緑のホルターネックのキャミソールを着込み、デニムのホットパンツを穿いている。
うっすらと日焼けした健康的な肌に僅かに汗がにじんでいるところを見ると、外から帰ってきたところらしい。
「でもさ、ちょっとは涼しかったよね?気分的に」
クーラーのリモコンで設定温度を下げながら、上機嫌で話しかける。
「………」
ベットの上の、妙に盛り上がった布団に向かって。
「おーい、生きてるー?」
てちてちと寄って来た甘栗を撫でながらもう一度呼びかけると、ベットの上の布団の塊がもぞもぞと動いた。
上に乗っていたモーラットの津が、落っこちそうになって慌ててバランスを取る。
やがて蝙蝠柄の黒い布団の中から、ひょこ、と天が顔を出した。
瑠璃色の長めのショートヘア、銀色に輝くツリ目気味の大きな瞳。
外が暑かったのか、それとも布団の中が暑いのか…上気した顔。どこかしょんぼりしているように見えるのは、決して気のせいではないだろう。
「…何も夏休みにゴーストタウンに行く必要ないと思う……」
今にも泣きそうな声。
「いや、夏休みだからこそ!肝試しは夏休みの醍醐味でしょっ!」
八重は明るく元気にキッパリハッキリ言い放ち、甘栗の顔を手で挟みこんで「ねー?」と同意を求める。
分かっているのかいないのか、甘栗は兎のようなしっぽを千切れんばかりに振った。
「楽しかったよねー!どこまでも続く階段とか面白!トイレなんて怪談で有名な赤いマントを実際に体験できちゃうしっ!」
「もう行きたくない……」
盛り上がる八重に対し、天は消え入りそうな声でぽつんと呟くと、またもぞもぞと布団の中に顔をひっこめてしまった。
津がまた落っこちそうになって、慌ててバランスを取る。
「まぁ、これも一種の修行だと思って、ね?みーちゃんに会ったら怖い映画を観る羽目になるんだし。予行演習ってやつ?リアルで体験しとけば怖くなくなるってー」
からからと笑いながら、八重は布団を叩いた。
「満おねーちゃ……」
天は思い出したように呟くと、布団の塊のまま、逃げるようにこそこそとベットの端へと移動した。
今度こそバランスを取りきれなかった津が、ころんと転がり落ちて、敷布団の上に着地する。
「みーちゃん、嫌い?」
八重が尋ねると、布団の塊がもそもそと動いた。
「満おねーちゃんは大好きだもん。怖い映画見せてくるのが嫌なだけ」
「大変っ!おかーさーん!ここで何か一人で告白してるのがおるー!!」
「って八重が先に言ったんじゃんっ!」
明後日の方向を向いて八重が楽しそうに声を上げ、天がばさぁっと布団を跳ね除けて起き上がった。
布団に潜り込んでいたせいで、黒と白のストライプのノースリーブのブラウスも、黒のショートパンツもしわになってしまっている。
その足元では、ぼんやりとしていた津が、頭上から落ちてきた布団に飲み込まれて見えなくなった。
「うんうん。まあいいんじゃないかなシスコン君。もうすぐ実家に戻るんだシスコン君。その時に会えるよシスコン君」
「変な呼び名つけるなー!」
「寧ろ称号にしてしまってもいいのではないのかねシスコン君」
「やだ!!」
布団からもそもそと這い出し、津は二人のやり取りを見つめ始めた。
「照れることは無い!別に恥ずかしがることではないんだぞ?若干恥ずかしいけど」
「結局恥ずかしいんじゃんっ!」
「ところでさ、身長150センチ以上行ったらシスコンもブラコンも禁止って法律で決められてるんだよ。知ってる?」
「嘘っ!?」
「うっそ~♪」
「八重ー!!」
八重の足元では、既に飽きたらしい甘栗が、転がっていたリモコンをつついて遊び始めている。
津はじゃれあう二人をぼんやり見つめ、やがて、ため息のような鳴き声をひとつついた。
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GT開けたよという話。
文章は最初の数行で、後は対談形式にしようと思ってた…はず。
七不思議の1つのトイレの話では、赤いマント、赤いちゃんちゃんこ、赤い紙、と色々バリエーションがあった記憶が。
後は…動く銅像以外、元ネタがよく分かりません。どこにでもある怪談話だとは思うんですが。
「ワタシキレイ」って、口裂け女の名セリフ(?)なんじゃないのかな。
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