この学園を離れます。
甘栗と津は山田家に預ける事にしました。
津は…不服そうだったけど……しょうがないです。
……………使役ゴーストと離れるって、可能なんですかね…(悩)
でも、連れて行く訳にもいかないしな。
結社にも退団届けを出してきました。
また戻ってきたら、お世話になるつもりなので、手間をかけますが…その時は宜しくお願いします。
つっきは黙示録のお誘い、本当にありがとうございました。一緒に戦ってくれた皆もありがとうです。
僕の我侭で離れるのに…お気遣い、感謝します。また戻ってきたら遊んでくださいね。
それでは…暫しの間、さようなら。
行ってきます。
(パソコンの電源を切ると、黒いショルダーバッグを肩にかける。部屋の電気を消して出て行った)
空気は痺れるほどに凍えて、空には冷たく光る星。
月の姿はここからは見えず、足元を深い影が覆う。
「怖気づいた?」
夜に滲むように広がる、からかいを含んだ声。
見やれば、こちらに向き合うようにして立つ長身の影。その表情もやはり影に塗りつぶされて見えない。
挑発するような笑みを浮かべているであろう事は明らかだったが、苛立ちは不思議とわかなかった。
「別に」
無視してもよかったが一応答えてやると、その無愛想な返答に苦笑するような気配が伝わってきた。
この人物との関係はどのようなものだっただろうか。
仲は良かったような気がする。そして、もっと穏やかな言葉のやり取りをしていたように思う。
けれど、今の会話に何の違和感も抱かない自分がいる。
自分はどのような表情を見せていたのだろう。そして今は、どのような表情を見せているのだろう。
僅かに考えを巡らし、すぐに切り捨てた。
どちらでもいい。そんな事はさしたる問題ではない。
「行くんだろ?」
お喋りをしている暇は無いんじゃないのかと暗に込めて言ってやると、肩を竦められた。
これ以上話す気は無いと頭を振り、歩き出す。
「―あ、それと…」
すれ違い様に声をかけられる。どこか気まずそうな響きに、思わず足を止めた。
「…何?」
眉根を寄せて訝しげに見上げると、相手は指先で己の背後を指し示す。
指先を辿って視線を下ろすと、相手の足元、先程立っていた場所からは見えない位置に――
「むぇっむ!」
真っ白なもふもふが一匹立っていた。
暗がりの中でも「よっ!」と言わんばかりに軽く片手を挙げて挨拶しているであろう事は、今までの付き合いで十分想像できた。
思わず脱力して、その場へ崩れ落ちる。
「……追わないように、ゆき兄が引き止めといてくれるんじゃなかったっけ…?」
恨みがましく呟いて見上げると、申し訳なさそうに笑われた。
「いや、俺もそのつもりだったんだけどね…ゆきがね…」
泣き落としって怖いよねぇ…とのほほんと呟きつつも頬をさするその姿を見て、何が起ったかを理解する。
同時に、どう足掻いても置いては行けない事も。
「泣き落とした上に味方につけたな…?」
宥める様にこちらの肩をぽすぽすと叩いていたもふもふに視線を移すと、何のことやらと目をそらして吹けない口笛を吹き始めた。
誤魔化せて無いし。空気が抜けるだけで全然吹けてないし。
「ここは諦めるしか無いんじゃないかな?」
頭上からの苦笑交じりの声に、溜息混じりに渋々頷いた。
もふもふがそれじゃあ早速!という風によじよじと頭の上に上り始める。
落ちないように手で支えてやりながら立ち上がると、頭にしがみ付つかれ、つんつんと髪を引っ張られた。
「むぇっ!」
俺に任しとけ!そんな声が聞こえてくるような気がして、思わず笑みがこぼれた。
刺す様な空気の冷たさが、足元に広がる影が、いつの間にか気にならなくなっていた。
「それじゃあ…行こうか」
夜に沈んだ道、その先を見つめて静かに呟き、歩き始める。
静寂の中に響くのは、2人の足音のみ。
振り返る必要は無かった。
またここに、戻ってくるのだから。
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